小屋と離れの設計

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中古住宅リノベーション。解体工事は、発掘作業に似ている。

中古住宅の解体工事編

解体①ーリノベーションを通して、時を超えた無言の出会いー

解体工事、一般的には建物を壊すことと認識されています。リノベーションをする上でどこまで解体するか設計段階で大切なポイントの一つです。
単純に全部壊せばいいというわけではありません。
リノベーションにおける解体工事は、いわゆる過去との対話ではないかと思います。過去の工法から過去の材料の使い方、経済状況まで、様々なことが、この解体工事を通して作り手が語ってくれています。
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そう、その家にどんなストーリーがあったのか。これを紐解くことが解体工事なのです。

まさに工事の過程で、住まいが造られた時代や背景の痕跡を発見することがあります。

この古民家が建てられた時代、建物に隠された謎を紐解いてゆく、まるで発掘のような作業…いや、推理小説に近い感覚を度々覚えます。まさに、古民家の解体工事の醍醐味と言えます。

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今回も解体を始めて、間もなくのこと…『うわっっ‼︎』現場に雄叫びが響き渡ります。
振り返ると…床板が抜けてしまいました。安全に細心の注意をしていても、トラップ??のように落ちることもあります。築年数が経っていても人が住んでいた住まいと人の住んでいない住まいでは、劣化の具合が全く異なっています。この住宅は人が住まなくなってから1年になります。しかし、築年数の経過してしている中古住宅の劣化速度は思ったより早かったのです。

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『何だこの床、腐っているだけじゃ無いような気がする…』

この部分はもともと畳だった部分です。畳は、藁床を使った本畳です。現代においては藁床を生産が激減し新築の家で、まず見ることはないでしょう。最近ではスタイロ畳と言った薄手の畳が使われる事が主流なのです。

それにはいくつか原因はあるのですが、今の住宅の多くは剛床という構造形式を用います。多くは24㎜の構造用合板で床を構成するので、根太と言うものを使わなくなります。そうすると床のレベルが、合板の上から始まるので畳であってもフローリングと同じ厚みになってしまいます。もちろん段差を付ければ問題ないのですが、フローリングと同じ厚みの方が段差がなくなり納まりもよく、バリアフリーにもなるので今では12㎜や15㎜の畳が使われる事が多くあります。ちなみに本畳は55~60㎜程度になります。

まぁ畳は良いのですが、妙に薄い下の板、寸法が小さい根太(床板を支える横材)…今の私達では使わないような材寸の木材が使われています。一昔前のべニアは薄いものを使っていました。

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床を剥してみると、そして大引きを支える束が出てきました。一般的に床下は湿気に強い材として一般的に、栗材や檜を用いています。近年では防腐注入木材を利用し、鋼製束を使用することが一般的になってきました。
しかし今回の現場では、なんと石の積み重ね!!!。
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「この家の大工さんなぜこんな工事をしているの??」解体を進めながら、過去の大工さんに疑心暗鬼になりつつ、彼がどんな思いだったのか汲み取ろうと必至です。本当に手を抜いていただけか、どんな住まいにしたかったのか。

解体②ー築70年の証拠ー

そしてこんな粗悪な材料が使われていた理由、それは最も古い土壁を解体した時に知ることができました。

『新聞だ!!』出てきたのは戦後間もない1946年の新聞、しかも、マッカーサー元帥(歴史の教科書を参照)の帰国について書かれた記事です。

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もともと聞いていた築年数はそんなに古くありませんでした。新聞は1946年7月27日

それが、この家は築約70年という事。戦後間もない、まともな材料もない時代に建てられた家だったのです。想像するに難くない、時代背景。バラックでもなんでもいいから住む場所が求められたので、材料の良し悪しを選別している場合ではなかったのかもしれません。それでも、要所の材料はしっかりしていました。

70年前の大工が、その時にあった材料の中で、必要な物を作った。たった床下の束であっても、時代のストーリーを感じられます。一方、現在のこれだけ物があふれる現代において、私達はどうやってもう一度この家に命を吹き込むのか。

 

解体③ーもう一人の大工に出会うー

『この梁はおかしいなぁ』

天井を剥ぎ取り、70年分の埃を浴びながら、そんな疑問が湧き上がります。見えてきた伝統的な梁の上には、別の梁が斜めに乗っかっていました。いや~補強でもしたのかな?でも梁の形状が違うしな?
通常では、ありえない構造です。解体を進めれば進めるほど、おかしな構造体がどんどん露わになってきます。もう、みんな顔が真っ黒です。

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他にも…『この柱はおかしいなぁ』  『この階段はおかしいなぁ』

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現場調査の時から少なからず違和感を感じていました。
オーソドックスな木造であれば「尺モジュール」(91cm間隔)で柱や梁、間取りが出来ています。昔は尺貫法を使っていたので尺モジュールを逸脱する事は少なく、間崩れをするにも、もう少し綺麗な寸法を用いたはずです。
しかし、この建物は、「間崩れ」起こしている部分が多くあったのです。近年では意図的に、「間崩れ」する事がありますが、この建物ではあまり考えられません。

この違和感は、キッチンの壁を解体している時にわかりました。   『あ…』

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壁の中から出てきたのは、昔の屋根と窓…さらに、屋根が2重になっています。どうやらこの家は、2階と1階の外周部分が増築されていたようです。真ん中の10畳くらいが古い建物で、その周辺に1間ぐらい程度増築していたのでした。古い窓はここが昔部屋であったことを示しています。今ではキッチンでした。ではいつ増築したのか。
増築年は…1981年、またしても新聞がその答えを教えてくれました。

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戦後復興の時代を乗り切ったこの家は、新たな大工さんの手によって次の時代に引き継がれたのでした。戦後の高度成長から家族が増え、昔は銭湯に行っていた入浴も、各家庭にお風呂が付き、キッチンも既製品が出来てきた時代。時代に合わせ家もリノベーションしなくてはならないタイミングだったのでしょう。

リノベーションはタイミングがあるのだなと改めて感じた瞬間でもありました。

そして、今度は私たちの番。
次の時代へ、ニーズに合った新しい価値を届けたいと思います。